私が、笹ヶ峰と聞いて最初に思い浮かべるのは頸城山域の妙高・火打山麓の笹ヶ峰でしたが、
四国にも標高1859mの笹ヶ峰がありました。
南尾根のブナの森と山小屋の丸山荘の主、片山さんとの出会いは楽しい思い出になりました。
寒風山の桑瀬登山口駐車場に車をデポして、徒歩で大座礼林道に入りました。
折悪しく雨が降り出したので未舗装の林道を傘をさしてのんびり歩きはじめると、
ダンプカーが1台前から走ってきました。
大座礼林道は側壁の工事中で、30分ほど重機や作業の人々の間を歩かなければなりませんでした。
漸く工事現場を過ぎると林道がカーブする辺りに滝が現れました。
幾筋もの白い流れを落とす美しい滝を眺めているうちに想定外の緊張から解放され、山モードに戻れました。
尾根の取り付きを探して進むと、赤布を縛った棒が挿してあるのが目に留まりました。
地図を見ると標高1130m、ここでよさそうです。雨具をつけて森に入っていきます。
平坦な植林地から傾斜を1段上ると対岸の山腹を走る林道が見えます。
先に延びた大座礼林道が見えているのでしょうか。
背の高い煤竹の踏み分けから雑木林を辿ること40分ほど、霧に浮かぶぶなが見えてきました。
幹回り4~5メートルはありそうなぶなが一目5・6本、幻想的なブナの森です。
雨は気にはなりませんが、それより14時だというのに霧に浮かぶ静寂の森は薄暗く、帳を一枚おろしたようです。
樹勢をいきわたらせて、梢を一斉に天に差しだす黒々とシルエット化したぶなの様子は、大樹をより大樹にみせて、迫力に息をのみます。
そんなぶな達を前に佇んでいると、ぶなの精や森の精霊のことが頭をよぎりはじめて落ち着かなくなりました。
そろそろ先に進みましょう。
標高1570mまで登るとそれまでのぶなに変わってダケカンバの林になりました。
標高を上げるにしたがって木々は灌木にかわり、笹原が辺りを覆うようになりました。
傾斜が最初に比べると緩んできましたが、笹の丈が胸の高さになって柔らかな滑りやすい踏み分けを、
足で探っては、濡れたササを下から掴むので、手袋はもちろん、袖口から笹の雫が入ってきて往生しました。
ガスに曇る笹ヶ峰山頂には誰もいなくて、冷たい風が吹き抜けていました。
山頂標の隣に一等三角点、そして石垣を積んで祠が祀られていました。
今度は祠の石垣の前から北斜面を、本日の宿丸山荘(標高1525m)に下りました。
小屋は無人でしたが、予約が入れてあるのでそのうち誰か来るだろうと、
竹樋に引いた流れで靴を洗って待っていると間もなく年配の男性が上ってきました。
丸山荘の御主人片山さんでした。
薪ストーブで温まった部屋で鍋をいただきながら色々な話を聞きましたが、
一番印象に残ったのは、丸山荘の古い住人の話でした。
ある日丸山荘にやってきたご夫婦にその住人の話をすると、奥さんが“みたい”といわれたそうです。
そこで片山さんは仕方なく二階の屋根裏部屋に奥さんを案内しました。
部屋に入った奥さんは辺りを見回して一番立派な1つを手に取ると、
「これをタンスの中に入れておくと着物が増えるのよ」といってクルクルクルと巻き始めたそうです。
住人とは青大将のことで、奥さんがくるくると丸めたのは、その抜け殻でした。
片山さんが先代から小屋を受け継いだ時にはすでに住みついていていたそうで、
初めて屋根裏部屋に入った片山さんは目を見張ったといいます。
2メートルもある抜け殻が、天上から簾のように何本も垂れ下がっていたからです。
「いまもこの上にいるんよ。」
「モーターの上が温いけん、あっちの方じゃわ」と奥の天井を指さしました。
蛇は気持ち悪くて嫌ですが、青大将を住人と認めて半ば慈しむ片山さんの語り口は、
不思議とそんなことを感じさせませんでした。
囲炉裏で乾かしていた登山靴の小端のゴムがめくれかかっているのに気がつかれた様で、
朝起きてみると、修理されて気持ちよく乾いた登山靴が土間に揃えてありました。
外の寒暖計を何度も見に行って、
「-1°じゃけん。起きたときは-3°あったけん山は雪かもしれんぞな気をつけて!」
「ありがとうございました、お元気で!」
ちち山を回って寒風山から下山します。
丸山荘の裏から傾斜のある尾根越えで二重山稜地形の紅葉谷にでて詰めると
笹ヶ峰山頂とちち山の鞍部(もみじ谷分岐)にでました。
この辺の針葉樹の樹林は、夕べ教えて貰った貴重なシコクシラベの純林でしょうか。
稜線を左に標高差100m弱、最後は岩場の急登でちち山山頂に着きました。
久しぶりに晴れました。
昨日上ってきた笹ヶ峰南尾根が手に取るように見えます。
冠山と赤石山系の山々、笹ヶ峰の展望を楽しんだら笹ヶ峰に向かいます。
笹ヶ峰山頂ではイブキササの斜面から下らないと南尾根の起こりは確認できません。
笹ヶ峰は西側の展望が素晴らしいです。
笹原の向こうに連なる稜線の先に鋭角なピークを起こすのは寒風山、その奥に伊予富士、
右に蛇行して西黒森、瓶ガ森と続いて後方に控える石鎚山が大きい。
寒風山は霧氷で真白です。
朝陽が溶かさないうちに寒風山に行ってみましょう。
縦走路の霧氷が南に向かうほど発達しています。
朝陽にキラキラキラとまぶしく輝いてこんな見事な霧氷を見たのは初めてです。
たまりません、誰もいないのを幸い、満足のいくまで登山道に立ち止って眺め、写真を撮ります。
愛媛と高知県境の寒風山は瀬戸内海から冬の冷たい季節風をまともに受けて
雪煙を上げる名前に恥じない寒風の山なのだとか。
きょうそんな寒風山の片鱗に出会えたのは幸せでした。
寒風山山頂で桑瀬峠の登山口から上ってきた最初の登山者と出会ってから、
1630標高点ピークで前方の黄色と赤のウエアの登山者に気がつきました。
ハッとする色彩の妙、石鎚連峰を背景に垂崖の上の立ち位置がまたよく、
今でもその光景がまぶたに焼き付いています。
写真は、PCの故障で飛んでしまいました。
逃がした魚は大きいといいますが、そんな心境がよくわかりました。
それでブログも始めました。
200名山 100/44座
2010-11-15~16 登山
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